日本の皆様へ
ミャンマーよもやまばなし
2020年11月16日
第3回 岡山大学が拠点校として活動するJICAプロジェクトについて
木股 敬裕/増田 瑛里岡山大学大学院医歯薬学総合研究科(形成再建外科学) 教授/岡山大学国際部国際企画課 職員
ミャンマーの医療状況
ミャンマーは、2011年の新政権発足に伴い、急速な民主化が進められてきたが、医療に関する基盤の欠如とともに、医師のみならず看護師や他職種の医療従事者の圧倒的不足により、未だに安全で良質な保健医療の維持が極めて困難な状況にある。さらに、植民地時代、軍事政権時代から引き継がれる教育システムは現代のニーズに合わず、将来を担う医療人材の育成が喫緊かつ最重要課題となっている。
岡山大学医療系キャンパス(鹿田地区)のミャンマーにおける医療協力活動について
岡山大学医療系キャンパス(鹿田地区)とミャンマーの交流の歴史は、京都大学在任中からミャンマーでの活動を行ってこられた岡田茂名誉教授(認定NPO法人日本ミャンマー医療人育成支援協会 理事長)が、岡山大学教授として帰任された1990(平成2)年まで遡る。その後、岡山大学は約30年にわたりミャンマーの医療や医学教育に携わる幅広い領域の人材育成に努めてきた。医療系分野全体(医学・歯学・薬学・保健学)の連携により、これまでに長期・短期合わせて約200名の留学生や研修生を受入れ、また、ミャンマー現地にて医療協力と医療教育を実践している。今回は、岡山大学が拠点校として実施に携わっているJICAプロジェクトを紹介する。
尚、以下の全てのJICAプロジェクトの計画・実施において、日本ミャンマー協会(会長 渡邉秀央元内閣官房副長官)より多大なるご尽力ならびにお力添えを賜ったことを衷心より感謝申し上げる。
六大学によるミャンマー医学教育強化プロジェクト
まず、代表的なJICAプロジェクト活動の一つは、「ミャンマー医学教育強化プロジェクト(Project for Enhancement of Medical Education/PEME)」である。国立六大学(千葉大学、新潟大学、金沢大学、岡山大学、長崎大学、熊本大学)の連携のもと、ミャンマーの医学教育ならびに医療の質向上を目指し、2015(平成27)年4月~2019(令和元)年9月の期間において、臨床医学と基礎医学分野の医療人材育成を行った。岡山大学は本プロジェクトの六大学事務局としての役割を担った。
プロジェクト活動として、臨床医学分野では、6分野(放射線科、内視鏡診断、産婦人科、病理診断、救命救急科、麻酔科)において、六大学にて毎年各大学2名ずつミャンマー人医師(放射線分野は、医師2名と放射線技師2名の計4名)を受け入れ、約11週間の臨床研修を実施した。一方、基礎医学分野では、各大学2名ずつ計12名を2015(平成27)年4月に博士課程に受け入れ、各専門分野(解剖学、生理学、生化学、微生物学、薬理学および病理学)で研究指導を行った。その結果、2019(平成31)年3月に12名全員が無事博士号を取得し、帰国した。
4年半のプロジェクトにおいて、両分野合わせて計67名(臨床医学:55名*、基礎医学:12名)の人材が育成された。両分野で受け入れた研修員や学生は皆、非常に熱心で優秀であった。この67名は、今後のミャンマーの医学教育や医療の発展において、核となり、多大な貢献をしてくれると確信している。
2019(令和元)年8月 PEME終了式(帰国研修員と日緬プロジェクト関係者)
なお、PEMEは一旦終了したが、PEMEで育成した人材を核としてミャンマーの医学教育をさらに発展させるべく、引き続き、六大学の協力により、ミャンマーにおける基礎医学研究ならびに臨床技術に係る人材育成の仕組み化、研究・研修拠点の運営支援を目指している。
*2017年度は1名辞退のため、六大学で計13名(医師11名、放射線技師2名)の受入となった。
ミャンマーメディカルエンジニア育成体制強化プロジェクト
岡山大学では、PEMEでの医師や医科大学教員の人材育成に加え、高度化する医療機器の保守管理を担うメディカルエンジニアの育成にも携わっている。
その背景として、近年、ミャンマーにおいて、保健医療予算の漸増により、さまざまな医療機器が積極的に導入されるとともに、援助機関からの最新型医療機器の提供も多いことから、求められる管理が高度化していることが挙げられる。その一方で、それらの機器の保守管理を行うための予算や人材が十分に確保されておらず、医療機器の適切な管理が不十分であるために、患者の安全や感染管理が脅かされかねない事態であることから、医療機器の保守管理を担う専門の人材育成が喫緊の課題となっている。
2018(平成30)年5月に開始した「ミャンマーメディカルエンジニア育成体制強化プロジェクト(Project for Human Resource Development of Medical Engineering in Myanmar/ME-Project)」では、ミャンマー保健・スポーツ省ならびにヤンゴン医療技術大学、そして日本臨床工学技士会・臨床工学国際推進財団を中心に、JICAや当学を含む複数機関の連携により、ミャンマー初のメディカルエンジニアの育成を行っている。[プロジェクト期間:5年間(2023(令和5)年4月終了)]
2018(平成30)年6月開講式(前列:第一期生18名/中列:保健大臣(中央)、渡邉会長(右隣)、岡田名誉教授(左隣)、日緬双方のプロジェクト関係者/後列:日緬双方のプロジェクト関係者)
これまでの成果として、2018(平成30)年6月にヤンゴン医療技術大学にメディカルエンジニア(ME)を育成する1年間のディプロマコースを開講し、2020(令和2)年9月現在までに第1期生と第2期生合わせて計36名のMEを輩出した。このディプロマコースでは、日本の臨床工学技士を講師として現地へ派遣し、講義や学内・病院実習において指導を行った。(2020(令和2)年9月現在は、コロナ禍で渡航困難のためオンライン講義に切り替えて第3期生のカリキュラムを実施している。)
ディプロマコースの修了生は、ミャンマー国内の複数の病院にそれぞれ配置され、医療機器等の保守管理を行っている。しかし、配置先の病院内において、MEという職種に対する認知度や職務に関する理解度はまだ低く、MEとしての本来の業務の遂行が難しいことや彼らに対する扱いや待遇が不十分といった現状がある。今後は、彼らのモチベーションを保ちつつ、いかにMEに関する啓発活動を進め、医療従事者としての彼らの地位を向上させていくかが検討課題となっている。
一方、プロジェクト終了後に、同じくヤンゴン医療技術大学内にMEの4年制学士課程の創設を計画していることから、本プロジェクトでは、ディプロマコース修了生の内5名を選出し、本邦の臨床工学専攻の修士課程へ受け入れ、将来学士過程の講師となる人材育成も実施する予定である。(2020(令和2)年9月現在、コロナ禍で、修士課程受入時期は2021(令和3)年4月まで延期となっている。)
日本人講師(臨床工学技士)による第1期生の講義の様子
その他の活動
2018年4月に、岡山大学では、前述のJICAプロジェクトに加えて、本学主体のその他の医療支援活動の推進・継続、日本のミャンマー医療系支援の情報の収集と透明化、さらに産官学を一体としたより効果的な支援に結びつけることを目的として、「岡山大学ミャンマー医療協力部(Okayama University Office for Myanmar Medical Collaboration/OMMC)」を発足した。OMMCでは、医療系キャンパスが実施している様々な活動に関する情報を取り纏め、定期的にホームページ(https://ommc2018.jp/)を更新しているので、是非、覗いていただければと思う。
今後の活動について
これからのミャンマーの保健医療の向上には、ミャンマーの自律的発展が不可欠である。そして、その発展を持続させるためには、人材育成を軸とした支援を可能な限り継続することが重要と考える。今後も、ミャンマーの医療や医学教育の質向上のため、支援・協力活動をより一層発展させるべく岡山大学としてできることを精一杯努力し、継続していきたい。