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2020年01月30日
【再掲載】ミャンマーの高等教育の現状(2019年現在)
ミャンマーの高等教育の現状
[1] ミャンマーの教育行政の変化と現状
(1)「国家教育戦略2016-21」と基礎教育、技術職業教育訓練
(2)教育関連法の現状
(3)新たな独立した組織
[2] 高等教育の変化と現状
< 1 > 国立大学の現状
(1)入試改革の実態
(2)業績による昇進システムの明確化と大学のオートノミー
(3)新設の学科、学部制への移行等
(4)遠隔大学の現状
< 2 > 私立高等教育機関の現状
(1)私立高等教育機関の立ち位置とこれまで
(2)私立高等教育機関の数といくつかの事例
(3)私立高等教育機関に纏わる論点
[1] ミャンマーの教育行政の変化と現状
ミャンマー留学コーディネーター配置事業が展開された期間(2014 年9 月から2019 年3月)、ミャンマーの教育事情も大きく変化した。とりわけ、スーチー政権発足(2016 年4 月)後、教育全般に関わる新たな施策を実行に移すことが開始された。
50 年以上も続いた軍政が幕を閉じ2011 年文民政権であるテインセイン政権が発足し、2015 年11 月の総選挙を経て、2016 年3 月でその任期を終えた。テインセイン政権期においても、数多くの教育改革が目指された。そして教育に関わる法律の母体ともいえる「国家教育法」が2014 年9 月に成立、さらに2015 年6 月に「国家教育法改正法」が成立した。1989年以来のべ15 年間に及ぶ自宅軟禁から解放され、2012 年の補欠選挙で国政に参加したスーチー氏は、テインセイン政権下で教育関係の委員会にも籍を置いていた[上別府2014:28]。
そしてテインセイン政権時に開始になった教育プロジェクトの一つ「包括的セクターレビュー(Comprehensive Education Sector Review: CESR, Phase1&2)」の提言を中心に、スーチー政権時において、「国家教育戦略(National Education Strategic Plan: NESP)2016-21」がまとめられた。2017 年2 月に、海外の開発ドナーらを招いて、その導入を宣言する式典が開催された[GNLM 2017.2.24]。現在教育改革はそのスキームに沿って進められている。
(1)「国家教育戦略2016-21」
「国家教育戦略(2016-21)」は、幼児教育、基礎教育、技術職業訓練教育、高等教育、生涯学習、ノンフォーマル教育をも含むもので、英語版で268 ページある[NESP 2016]。それらは現在12 の優先課題として纏められ取り組まれているので要点を紹介する[ミャンマー情報省 2019.4.10]。
① 幼児保育・教育事業
② 全国民が最低小学校課程を終え、さらに中学校課程、高校課程へと進学できるよう取り組む。その際身体的、知的、金銭的、距離的に困難な者への配慮を重要課題とする
③ 小学校課程においては、管区・州監督のもと民族言語によるカリキュラムの作成、指導を含め、少数民族言語と文化向上への取り組みを行う
④ 生徒と教師の比率を適切に保つこと
⑤ それぞれの学校において教員の教科指導力アップのための取り組みを行う
⑥ 基礎教育が全国民の手に届くものとなるよう、発展の遅い地域の学校、特に教材などが十分に行きわたらない中学、高校における不足を優先的に解決する
⑦ 学力が低い生徒の生活向上を目的とした中高同等レベルのプログラム、専門技能プログラムなどにより、学び続ける機会を作る取り組みを行う
⑧ 大学においては、独自のカリキュラム・自治を認め、自由に研究のできる国際水準に達した高等教育制度を出現させるべく取り組む
⑨ 技術職業教育訓練科目を、大学の科目と同等に発展させるべく取り組む
⑩ 生徒、親、コミュニティの負担にならないよう、効果的な教育サービスを提供する
⑪ 政府、民間と国内外から得られた教育予算を効果的に分配使用し、透明性を確保する
⑫ 正確な情報に基づく効率のよい教育改革、経営監督プログラムを実現させる
その中で大きな変革が断行されているのが基礎教育であり、そこにおいては、すでに知られているように11 年制から「KG(Kindergarten[幼稚園])+12 年生」への移行が2016-17年度より導入され、新制度下におけるKG の子供たちが誕生した。ここにおいて、幼児保育・教育といった考え方が導入され、5 歳児の教科教育からの脱却が始まった。
12 年制の導入により、5 歳で幼稚園、6 歳から10 歳(Grade 1– Grade 5)が小学校過程、11 歳から14 歳(Grade 6 – Grade 9)が中学校過程、15 歳から17 歳(Grade 10 – Grade 12)が高校過程となり、2022 年度には、その制度に則った高校卒業生が誕生する予定である。
JICA も小学校過程について支援しているカリキュラムの改定を見れば、すでに、2017 年度にはG1、2018 年度にはG2、2019 年度には、G3,G6 において新たなテキストが導入されており、G10 は(G4,G7 とともに)2020 年度、G11 は(G5,G8 とともに)2021 年度、G12 は(G9 とともに)2022 年度から導入の予定である[田中2017: 319]。
今一つNLD 政権が特に重視している教育課程が「技術職業教育訓練」(Technical and Vocational Education and Training: TVET)である。現在与党の国民民主連盟(National League for Democracy: NLD)のマニフェストにも”Develop vocational education so that it gains equal status with academic learning” と掲げられ[NLD 2015: 15]、大学入試を兼ねた基礎教育課程最終試験で受験性の3 割程しか進学できない中、中学、高校終了者への学びの受け皿として、
また国作りに欠かせない人材育成制度としても、「学術」教育と同様に(あるいはそれ以上に)「技能」の重要性がことあるごとに語られている。海外からの支援参画も数多く、ディプロマ、技術学士、工学士、修士、博士へと至る進学図も描かれている[田中2017: 320]。
(2) 教育関連法の現状
国家教育法の関連法については、2016 年の8 月から2017 年末までの間に、「技術職業教育訓練法」、「私学教育法」、「基礎教育法」、「高等教育法」などの関連法のドラフトが相次いで提出されている。2019 年12 月10 日に、基礎教育法は制定になった。その他の法律も連邦議会において審議中である。(高等教育法を除いて、それら法律のドラフト(ビルマ語)は教育省のHP に載せられている)。
私学教育法は2020 年には制定になるのではないか(調査時には2019 年内とも言われていたが実現しなかった)と予想される。他方、高等教育法は教育省の傘下にある大学のみならず医科大学など他省庁管轄の諸大学を包括する必要があり、それぞれの大学憲章が出揃ってはじめて可能となるので、時間がかかるのではという話も聞かれた。
(3) 新たな独立組織の設置
NLD 政権が始まった2016 年、国家教育法に則り、教育省とは独立した意思決定機関が設置された。それが「国家教育政策委員会」(National Education Policy Commission: NEPC)であり、6 月に組織された。それにより、「国家カリキュラム委員会」(National Curriculum Committee: NCC)が11 月に、「国家認定質保証委員会」(National Accreditation and Quality Assurance Committee: NAQAC)が2017 年1 月に作られた[田中2017:323]。
また「教育戦略」に記載の「国家高等教育発展院」(National Institute of Higher Education Development: NIHED)も、2017 年11 月以来NEPC の指針に即しヤンゴン大学を旗艦校とする高等教育変革の取り組みを行っているようである[Chaw Chaw Sein 2018]。さらに2018 年4月に国境省、宗教省、軍関係の大学を除くすべての国立大学の学長をメンバーとする「大学学長委員会」(Rectors’ Committee: RC)が組織された。因みに学長委員会の委員長はヤンゴン第一医科大学学長のProf. Dr. Zaw Wai Soe 氏である。
大学改革に関しては、2017 年から始まった「教育発展実行会議(高等教育部門)(Conference on Implementing Education Development(Higher Education Sector))」も重要な役割を担ってきたと言える。教育省、連邦の上院下院、全国大学学長・副学長、大学教員代表などが出席して毎年行われており、3回目を迎えた2019 年からは「大学発展実行会議」(Conference on Implementing Development of Universities)と別途名称改め、大学が直面している課題を真正面から取り上げる発表がなされており、改革の方向性が窺い知れる内容となっている。( 2019 年分の論考についてはミャンマー教育省HP, 高等教育局の頁 にて、また2017 及び18 年分についてはSEMINARIES(ママ)のタブから閲覧できる)
[2] 高等教育の変化と現状
<1> 国立大学の現状
上記法整備、体制始動に伴い、国立大学において以下のような変化が認められた。
(1)入試改革
すでに指摘されているが、2018 年度に一部の大学において独自の入試の実施が始まった。
従来、大学入試のスケジュールは、3 月にセーダン[10 年生]試験(全国大学入学試験)が行われ、6 月に合格者並びに合格点数発表、5 月に国立大学の入学資格点数を掲載した『大学入学案内が刊行され、6 月末から7 月の1 か月期間中に受験生はそこに記載の各大学の合格点数と自分の点数を照らし合わせ、希望する大学・専攻(10 カ所まで記入可)を記入した願書を教育省高等教育局に送付申請し、選抜、10 月末に大学決定合格者発表、12 月に入学・新学期という手順で進められてきた。ただ、一部の大学は新聞において告知があり、その大学を希望する者はそこに願書を送付するというシステムであった。
2018 年度においては、これまで新聞において告知することのなかった11 の大学も「新聞公告により直接願書を受け付ける」こととなった。新たに新聞告知を行った大学は以下である。
① ヤンゴン工科大学
② マンダレー工科大学
③ 工科大学(マンダレー)
④ 情報技術大学
⑤ ヤンゴン大学
⑥ マンダレー大学
⑦ ヤンゴン経済大学
⑧ ヤンゴン教育大学
⑨ ヤンゴン外国語大学
⑩ マンダレー外国語大学
⑪ 工科大学(ヤダナーボンサイバーシティ)
他方、選抜段階で大学独自で面接を実施することも開始された。入学案内に面接を実施すると明記された大学は以下の大学であった。
① ミャンマー海事大学
② ミャンマー航空宇宙学大学
③ ザガイン教育大学
④ ヤンゴン大学
⑤ ヤンゴン経済大学
⑥ ヤンゴン教育大学
⑦ ヤンゴン外国語大学
⑧ マンダレー外国語大学
⑨ ミャンマー情報技術大学
⑩ 国立文化大学(ヤンゴン)
⑪ 国立文化大学(マンダレー)
しかし、ヤンゴン大学、ヤンゴン経済大学、ヤンゴン外国語大学、マンダレー外国語大学、ザガイン教育大学等では面接が実施されたが、実際には面接が実施されないケースもあったと聞く。また受験者数が多く、面接では簡単な確認のようなやりとりで終わったケースもあったという。
2019-20 年には、「独自に入学選抜を行う大学、医科大学と医学関係大学」、として14 大学と医科系大学が明記された。
教育省管轄の大学は以下の14 大学であった。
① ヤンゴン工科大学
② マンダレー工科大学
③ 工科大学(マンダレー)
④ ヤンゴンコンピューター大学
⑤ 情報技術大学(ヤンゴン)
⑥ マンダレーコンピューター大学
⑦ ヤンゴン大学
⑧ マンダレー大学
⑨ ヤンゴン経済大学
⑩ ヤンゴン教育大学
⑪ ヤンゴン外国語大学
⑫ マンダレー外国語大学
⑬ 工科大学(ヤダナーボンサイバーシティー)
⑭ ミャンマー航空宇宙学大学
その際、前年の試みである申請先が変化したことにより学生が重複して申請するなど混乱が起きたため、申請先を高等教育局に一本化し(従来から新聞告知で願書を受け付ける制度はそのまま)、さらにインタビューを行ったのはヤンゴン大学1 校のみとなった。
面接における質問は、本当にその専攻に関心があるのかをという点が中心であったとのことである。
したがってこの場合の独自の選考というのは、大学側が願書を精査し、合格者を選抜する、の意味であり、基本的には10 年生試験の点数に基づくものである点は従来と大きく変わらないと言える。独自で選抜を行うといっても面接だけであり、それもいまだ試行錯誤であり、改革の難しさを思わずにはいられない。
また従来より受験生は、自身の10 年生試験の結果をもとに、設定されている各大学の合格点と照らし合わせ大学を選び(新聞公告で願書を別途送付する大学を除き)願書を教育省に送付してきた。その際、願書には10 の志望大学・専攻を記すことになっていたが、2018年度から22 カ所まで記入することができるようになったというのも一つの変化であった。しかしこれもまだ試行の段階であるという印象を否めない。
(2)業績による昇進システムの明確化と大学のオートノミー
次に大学の自治に関する変化について報告する。従来大学は何ごとについても決定権を持たず、常に教育相にお伺いをたて指示を待つ状況にあった。それは、テインセイン政権においてもそうであったし、スーチー政権においてもなお大学間のMoU 締結が以前より時間を要するようになるなど、肌で感じるような変化は認められないかのようである。
大学の自治は、テインセイン政権時からの課題でもあり、NLD はマニフェストにおいても「カリキュラムと大学運営に関し自治権を持ち自由に研究ができる環境を確保する」としていた[NLD 2015:15]。教育法改正法第57 条(gha)項において、「[人事院、内務省、国防省、国境省、宗教省の管轄下にある大学以外の]大学は独自の教育活動と運営を行うために大学評議会をそれぞれの大学憲章にのっとり組織することができる[国家教育法改正法: 2015:10]」とあり、さらに、「教育戦略」においても、「大学の自治と説明責任能力を強化して資金を含め効果的な管理と質の高い高等教育へのアクセスを実現すること」を、改革の柱の一
つにしている[NESP 2016: 199]。
今回の調査では、その現状を窺い知る一つの変化として、「独立して人事昇格、移動を行う大学」という組織があることが確認された[ミャンマー情報省2019.8.13]。もともと教育省と元科学技術省管轄の人事昇進システムのすり合わせから始まり、研究業績を重視した昇格移動の要件が決められた。同時に先導的にオートノミーを持つ大学として運営を行うため、教育省とのミーティングを重ねているようである。それら16 の大学とは以下のようであった。
ヤンゴン管区にある
① ヤンゴン大学
② ヤンゴン教育大学
③ ヤンゴン外国語大学
④ ヤンゴン遠隔大学
⑤ ヤンゴン経済大学
⑥ ヤンゴン工科大学
⑦ ヤンゴンコンピューター大学
⑧ ヤンゴン情報技術大学
とマンダレー管区にある
① マンダレー大学
② ザガイン教育大学
③ マンダレー外国語大学
④ マンダレー遠隔大学
⑤ マンダレー工科大学
⑥ 工科大学(マンダレー)
⑦ マンダレーコンピューター大学
⑧ ミャンマー情報技術大学
その会議における教育省大臣ミョウテインジー氏の発言の中に、
「[これらの大学は]アセアン諸国の大学におけるランキングなどの競争にも対応する自治大学を先導的に目指す大学であり、専門分野、地域、国家に寄与する応用研究論文を公刊し、その経験を学生の指導に生かすのであり、この16 大学は国が誇る大学であり、質の高い研究成果を出すことが求められている」とあり、また副大臣は、「教育戦略は4 年目を迎えており、2023 年には新体制の基礎教育を終えた生徒が大学に進学する年であり、質の高い大学教育へとこの3 年間で変革しなければならない。昇格、移動のシステムを構築するのは、個人的な問題ではなく、システムの問題であり、これを整える必要がある」と述べている[ミャンマー情報省 2019.8.13] 。
従来の教育中心から研究重視への移行は、教育戦略にも示され、研究論文数を重視する立場は2017 年教育年の教育発展実行会議において、より明確になった。その後、2018 年度、2019 年度においては、例えばヤンゴン大学の第19 回文理科研究大会などにおいて、全国から論文発表の申請数が桁違いに増え、重複投稿や盗用など問題のある論文も増加したことが指摘されている。
また2019 年度において、業績をもとにした昇格システムに則った人事異動も発表されており、ベテラン学科主任であった教授が地方の大学にトランスファー(教員転勤制度による転勤)になる辞令がおりる、あるいは若くして学科主任教授になるといった人事が実際に発表されるようになるという変化も起きているようである。
科学技術関係の大学については、論文の発表数がリスト化されHP に掲載されている様子も伺えた。
上記16 大学は先導して大学の自治を実践する大学になっており、中でも2020 年12 月教に、創立100 周年を迎えるヤンゴン大学は、そのマスタープラン「ヤンゴン大学の再生マスタープラン2018-2030」ソフト面はEU が支援)によれば2019 年中に、大学憲章を採択するとしており[Master Plan (University of Yangon)]、ヤンゴン大学をモデルケースにこれらの大学にも自治が付与される可能性もあると聞いた。ただヤンゴン大学にしても、2021年までに大学のガバナンスや運営能力を持つ、としている点、さらに自治大学という場合には、予算の問題とトランスファーシステムの問題があり、そこは最も難しい点、との発言も聞れ、実際に2020 年にどのような形で何が実現されるのか注視する必要がある。
(3)新設の学科、学部制への移行等
次に大学の追加増設などの動きを見てみる。
現在国立大学の数は174 校あり、8 つの省庁が管轄している。
1)教育省の傘下には134 大学があり、6 つのタイプに分かれ①文理科系大学39、②経済系大学4、③遠隔大学(ヤンゴン、マンダレー)2、④外国語大学(ヤンゴン、マンダレー)2、⑤工科系大学33、⑥コンピューター大学27、⑦教育大学2、ディグリーカレッジへと昇格予定の教育カレッジが25、となっている。他の省庁の傘下の大学としては、2)運輸通信省の傘下にミャンマー海事大学、商船大学、の2 校、3)国防省の傘下に、国防カレッジ、防衛アカデミー、防衛医科大学、防衛工科アカデミー、看護薬学院、コンピューター技術院の6 校、4)国境省傘下の連邦民族発展大学と民族青年人材発展ディグリーカレッジ(ヤン
ゴン、ザガイン)、それぞれの3 校、5)宗教文化省が国際テーラワーダ仏教宣教大学、国家教学仏教大学(ヤンゴン、マンダレー)の2 校、文化大学(ヤンゴン、マンダレー)の2 校、合計5 校、6)農業省が、イェズィン農業大学、獣医大学(ネーピードー)、共同組合大学(タンリン、ザガイン)、共同組合カレッジ(タウンジー、マンダレー)、漆器技術カレッジの計7校、7)保健省下の医科系大学が16、8)環境省の森林大学1校となっている。
2014 年の時点では、大学の数は169 校であり[JSPS、2015:27-31]12 の省庁が管轄していた。174 への変化は、名称を変えた大学を別にすると、チン州のハカ、ザガイン管区のホマリン各文理科カレッジ、2 校、カヤー州ロイコー教育カレッジ、シャン州チャイントン教育カレッジ、ザガイン管区カター教育カレッジ、チン州ハカ教育カレッジ4 校と、シャン州タウンジー医科大学1 校が増え、計8 校が増加、技術カレッジ(シュエボー、モーニン、ミンジャン)の3 校が統廃合によりマイナスで、最終5 校プラス、となっており、遠隔地域への充填と、教員養成に関わる変化であったことが窺える。
省庁管轄数が12 から8 に減っているのは、従来から言われている大学全体を教育省傘下におくことを目指して、というより、2016 年、スーチー政権になって、省の統廃合が進んだためである。ただその一環で科学技術省が教育省と統合になり、その管轄下にあった工学系大学は教育省の傘下に入った(戻った)ことは一つの変化であった。聞き取りなどの調査からは大学の増設予定はなく、地方のカレッジをまとめて大学に昇格させる等といった動きは考えられるとのことであった。
他方で、学科の増設は行われており、2015 年度より、ヤンゴン大学国際関係学科に政治学科(Political Science Studies)が付設された、また2017 年、マンダレー大学では地理学科に環境学科(Environmental Studies)が設置、2018 年ヤンゴン大学では動物学科の傘下に水産・養殖学科(Fishery Science)が設立された。ナショナルマネジメントディグリーカレッジ並びにマンダラーディグリーカレッジにおいて、観光学科(Tourism)、スィットゥエ大学において、海洋科学(Marin Science)などが新設になっている。
またヤンゴン大学のマスタープラン(2018―2021 ) 実施項目では環境水利学科(Environmental and Water Studies)とミャンマー民族研究学科(Myanmar Nationalities Studies)という学科の新設が予定されており、他方工業化学科の傘下に、食品技術(Food Technology)、植物学科の傘下における微生物学(Microbiology)、作物学(Crop Science)、地理学科の科目として地理空間技術(Geospatial Technology)など、文理科大学を見てみても、新学科の設置が予定もしくは始動している点、さらに学部(Faculty)制への移行をめざしている様子が見て取れる。[Master Plan(University of Yangon)]
ここで、大学教育における日本語授業の組み込みについても触れておきたい。大手人材派遣会社J-sat はマンダレーコンピューター大学において、日本語の単位認定クラスを受注している。年間150 時間、1 コマ50 分の3 コマを週2 回で、当初日本語教育の最初の段階である、日本語検定試験N5 レベル到達を目指しているとのことであったが[財形新聞2018.11.29]、その後技術大学(マンダレー)でも開始、いずれの大学もクラスを増設し、卒業時にはN3のレベルになっていることを目指すとのことである。これらの他に、ヤンゴン工科大学(単位あり、4 年生後期のみ、昨年は国際交流基金が支援)、タンリン工科大学(単位無し、J-sat)マンダレー工科大学(単位無し、日系企業支援)、またヤダナーボン大学で日本語授業実施予定(単位無し、岡山科学技術専門学校支援)などがあり、大学の外国語教育に日本語を、という要望は格段に高まっている様子が窺え、実際に開講の方向にあるという点は注目すべきであろう。
(4)遠隔大学の変化
従来遠隔大学は、これまでヤンゴン、マンダレーの2 校であったが、1 campus 2 systemとして2018 年度より、すべての文理科系大学、経済系大学で、正規コースと、通信コースが始まった。ヤンゴン、マンダレーの2 大学は、テキストブック、ビデオ制作等を中心に行い、各大学が、スクーリング、試験、採点、合格者発表などを行うとのことであった。
10 年生試験の合格率は毎年30~35 パーセントであり、その内約6 割は遠隔大学に進学している。
70 年代当初、勤労学生らに教育の提供をという趣旨で始められた通信制の大学は、軍政期には、大学から学生を遠ざける機能を担ったとも言われた。しかし現在では、大学進学者すべてをデイスクールで受け入れられないという実情もある。今後ますますオンライン教育の必要性は高まるであろう。
10 年生の受験生の総数は、2017-18 年が789,845 となっており、合格者はその32,82 パーセントの259,191 人であり[Central Statistical Orgamization 2018:173]遠隔大学の入学者数は179,556 人であった[同上:179]。
また2017-18 年では、デイスクールの学生の総数は393,398 人、遠隔大学は574,336 人であった[ミャンマー情報省. 2019.4.10] 。
なお大学に支払われる授業料についても触れておくと、大学、ディグリーカレッジ、カレッジの一年次には、学生証代100 チャット(1 チャット=約0,075 円[2020/1/30 現在])、入学料100 チャット、学費は2 か月で1000 チャット、スポーツ費100 チャット、実験室代が理系は600 チャット、文系は300 チャット、試験料は300 チャット、図書館料は300 チャットとあり、年間でも、7200 から7500 チャットのようである[ミャンマー教育省2019.5: 119]。遠隔大学授業料は年間で1,500 チャット、ただしDVD も含めテキスト代が15,000 チャットとされる[同上:145]。
口頭で尋ねたところ、例えばヤンゴン大学の場合、学部生の学費は11,000 チャット、修士の学生は12,000 チャット 博士課程の場合25,000、一般に文理科大学(ヤンゴン西大学など)年間の学費は文系9,000 チャット 理系10,000 チャット、との回答であった。
<2> 私立学校の現状
(1)私立高等教育機関の立ち位置とこれまで
以上、国立大学を中心に高等教育の現状を報告したが、今回の調査で明らかになったのはそうした国立大学の変化以上に、私立大学を取り巻く環境が変化している点である。次に私立大学の現状について報告する。
テインセイン政権期においては2011 年に私学登録法が制定され、私立の基礎教育学校への門戸を開いた。しかしこれらの学校にはミャンマーの国立基礎教育学校過程で用いられるカリキュラムを含む必要があった。そのためインターナショナルスクールは計画財務省のミャンマー投資委員会MIC(2018 年11 月以降の投資・海外経済関係省)の認可を得て開校に到っていた。
私立大学もその状況はインターナショナルスクールと同様であった。コーディネーター事務所が設立された当初2015 年の時点では、私立の高等教育機関はカレッジが中心であり、それらは英国BTEC などの認証を受け、学生はミャンマーの大学入学資格を持って入学でき、HND ディプロマ取得後、欧米の提携大学の3 年時に編入できる等をうたい文句としていた状況があった。国立大学は軍政期における度重なる閉鎖と在籍時間数短縮などにより久しく信頼を失っており、ただ学位を取得する意味で遠隔大学に在籍し、他方カレッジで外国語やコンピューターなどの実学を学ぶという傾向もあった。取得できる資格も、サーティフィケイト、ディプロマが中心であった。
しかし2018 年頃から、ユニバーシティへと名称を変更する、もしくは名乗る機関が増え、学士、修士、場合によっては博士号まで授与されるようになってきている。
先に述べたように、2016 年8 月に起草された「私学教育法」は審議中であるが、その一方で2018 年4 月に、投資局より暫定的ではあるが、「教育サービスへの投資活動実施に関わる告知」(Notification to carry out investment activities in education services)[DICA 2018.4]が出され、これが事実上教育産業への投資の解禁と受け止められているようである[PHEIA 2019: 3]。
この告知も投資局によるものであるが、私学教育法が制定になって以後はそれに従う、とされており、私学教育法が制定されるまでの暫定措置であることが窺える。この意味からも私学教育法制定を目前に見据えた動き、となっていることが考えられる。
2019 年8 月には私立高等教育機関をメンバーとする協会PHEIA(Private Higher Education Institutions Association)も設立されており、それまでに教育省と私立大学との会合も持たれていること、2019 年年内にも私学教育法を制定すべきとの政府側の見解もあるという情報12もあった。それゆえ、正式に認可されるのも間近という認識をもつ必要があろう。
(2)私立大学の数といくつかの事例
そうした調整会議に出席し名前が確認できる大学は2019 年7 月の時点で39 校であった。
1)American University of Yangon, 2)Assumption University - ABAC Myanmar Professional Training Center, 3)Benchmark Management College International, 4)British University College, 5)Business Institute Yangon, 6)Career
Core Institute, 7)Change U Myanmar International College, 8)Chindwin College (UK), 9)Ever Up College,10)Excellence Choice, Institute of Finance and Management, 11)F.A.M.E Education Myanmar, 12)Forever Academic Accountancy and Management Education Co., Ltd, 13) Guarantee International College, 14)Info Myanmar University (IMCS Co., Ltd), 15)Institute of Business and Investment Management (IBIM), 16)Kaplan Myanmar University College, 17)Knowledge Hub Institute, 18) MESI Entrepreneur SMEs, 19)MMC Training Institute (Myanmar Computer Company), 20) MMAC College, 21)Myanmar Human Resources Institute (MHR), 22)Myanmar Imperial University, 23) Myanmar International Business Academy (MIBA), 24)Myanmar Management Institute, 25) Myanmar Metropolitan College, 26)Myanmar Supply Chain College (MSCC), 27)Oxford Myanmar Medical College, 28)Parami Institute of Liberal Arts and Sciences , 29)PS Business School, 30)Robinson Business School, 31) Rvi Institute (Myat Thit OO), 32) Science and Tech International Myanmar University (STI), 33)SME Business Institute, 34)Star Academy, 35)Strategy First University, 36)Temasek International College, 37)Victoria University College, 38)WISE College, 39)Yangon Institute for University Studies (YIUS)
関係者からの話ではその数は60 校とも聞かれ実際の数字はさらに増えると考えられる。
2019 年10 月の時点で取得できる学位等については、私立高等教育機関協会登録39 校のうちディプロマを取得できる学校は35 校、学士号取得できるのが18 校、修士号は22 校、博士号は4校とのことである。また海外との提携という意味では、39 の機関のうち、アメリカとのパートナーシップがあるのは5 校、31 がUK、5 校がヨーロッパ、12 校がアジア諸国、3 校はミャンマーで、36 校は営利だが、3 校は非営利である、と報告されている。上記39 校は先に述べた協会に登録済みの大学であることが推測される[ミャンマー教育省2019.7.13]。
以下にいくつか任意ながら私立大学を紹介する。
[Parami Institute of Liberal Arts and Sciences]
今回の調査でおそらく最も注目される私立大学と思われたのは、Parami Institute (Parami University)である。2017 年1 月設立。創設者Dr. Kyaw Moe Tun はBard college で学士号を、イェール大学で化学の博士号を取得。彼の博士研究は、アルツハイマー病治療薬(-)-フーペルジンA の産業開発に至ったとのことである。「ミャンマーの高等教育の未来を作り直す」とHP には掲げられており、リベラルアーツ(文理融合)教育を前面に打ち出しており、欧米からも学生を受け入れている。
この学院は2019 年よりParami University の建設工事に着手している。ミャンマー初の非営利、キャンパス・宿舎を持ち、米国の国際的に認められた、本人が学び卒業したリベラルアーツカレッジであるBard college と提携し、私学教育法が制定されそれにより認定を受けた後にParami 大学とBard College から2 つの学士号を授与する予定としている。
他の私立大学も学位を授与するようになっているが、基本的に海外提携大学からの学位のみを授与する現状において、自らの学位を授与する点、創設者がミャンマーの高等教育を変えるという高い理念から動いている点、私立高等教育機関協会の筆頭(会長)に立っている点でも注目される。
[Info Myanmar University]
2014 年Info Myanmar College 設立。2019 年6 月にInfo Myanmar University と名称を改める。B.Sc (Hons) in Computing, M.Sc (Advanced Security & Digital Forensics) Program があり、Edinburgh Napier University (England)から学位が授与される。年間学費は約380 万チャット。CEO のU Kaung Myat Paing はMRTV(ミャンマー国営テレビ)にて、私立大学の選び方などについて解説したことがある。
[Strategy First University]
2010 年、Strategy First Institute 設立。2019 年3 月にStrategy First University と名称を改める。Business, Civil Engineering, Business Information Technology について学士、修士の学位がOxford Brookes University (England)から授与される。Business & Management の場合3 年間の学費1247 万チャット。ヤンゴンを中心にマンダレー、モンユワに8 つのセンターを持つ。
[Star University]
2005 年、Star Resources Academy として設立。現在の名称はStar University(2019 年7 月のリストではStar Academy を使用)観光、ホスピタリティー、マーケティングなどが専門分野。ホテル・観光省と国家技能基準機関(National Skills Standard Authority)により認定を受けている。大手ホテルにてインターンシップ、就職にも結びつく学校経営。MBA がLincoln University College (Malaysia)から授与される。MBA 取得コースには、土日通学2 年間、15 科目と論文執筆が課されるものもあり、授業料6000 ドル、授業料半額免除などの奨学金プログラムもある。
(3)私立大学に纏わる論点
2019 年10 月16 日-17 日に実施された大学発展実行会議において、スーチー氏のスピーチをはじめとして、教育省大臣、他の機関、委員会の代表らのスピーチと様々な角度から高等教育の発展に向けた報告がなさされたが[GNLM 17, Oct. 2019] 、先に述べたノンプロフィットParami Institute の創設者で、発表直前に結成されたという私立高等教育機関協会(Private Higher Education Institutions Association: PHEIA)の会長であるDr. Kyaw Moe Tun 氏 は、「ミャ
ンマーにおける私学高等教育の役割- 機会、挑戦、希望」という報告を行っており、そこにおいて指摘された5 つの課題が、現状を把握する上で参考になるので紹介する。
まず第1として、現状では私立高等教育機関で授与されている学位が公式には認められていないため、産業界に就職するもしくは公務員になる、あるいはさらに進学する等に際して不利であること、2 点目として、明確な国家資格のフレームワークがなく、ユネスコなどの国際的な資格基準を採用せざるを得なくなっている点、3 点目として、私立高等教育機関に関する質保証、認定メカニズムがないため、内部質保証を強化するしかないがそれが困難な点、しっかりとした質保証制度の上に立脚することできていない点、4 点目は用語の明確な定義が欠如している点、諸機関が提携している国は数多く、それらの国の用語はまちまちで、例えばカレッジ一つとっても高校レベルを含む英国の使用と、高等教育機関を指す米国の使用などが異なるなど、そして5 点目として、インフラなど初期投資のコストが高いこと。ミャンマーの不動産経費は高く、それに対する支援がないことが民間の高等教育機関の発展に大いに足かせとなっている点、が挙げられている[PHEIA 2019: 3]。
他方期待される点としては、1960 年代初頭から教育省、中央集権によって規制を受けてきた国立の大学は、いま自治を強化するための改革を行っているが、私立機関には何を教えるか、どのように教えるかに関してはるかに自由な自治がある点、市場のニーズ、国家や社会のニーズに合った教育を提供することができる点、国立の大学が受け入れられない学生数を受け入れ、高等教育を提供できない遠隔地においても学べる機会を提供できる点、国立大学では見られないプログラムや特定の教育環境(例えば英語を媒体言語とする授業)を提供できる点、さらにそれがビジネスと結びついていることで、ビジネス戦略によりミャンマーの高等教育の課題を効果的に解決するであろう点等が挙げられていた。[PHEIA 2019: 3-4]
私学高等教育機関と、教育省、教育政策機関、カリキュラム委員会、認定質保証委員会、学長委員会などが2019 年8 月の時点で5回の会合を持ち、調整検討会も2回行われているところ[ミャンマー教育省2019.7.13]、私学法制定による民間高等教育機関の認定の時期が近いのではないかという印象を強く受けた。
[大阪大学外国語学部非常勤講師、原田正美氏による報告書(2020 年1 月31 日提出)から一部を掲載]
[参考文献]
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上別府隆男. 2014.「ミャンマーの高等教育 -「民政」下の改革- 」ウエブマガジン『留学交流2014 年11 月号 Vol.44』 日本学生支援機構(2020/1/30)
上別府隆男. 2018.「ミャンマーの高等教育改革と今後の方向性」『カレッジマネジメントVol.210』リクルート進学総研(2020/1/30)
財形新聞. 2018.11.29 「J-SAT、ミャンマーの国立大学から日本語クラスを受託 民間企業で初めて単位認定/12 月7 日に開講式を実施」 (2020/1/30)
田中義隆. 2017. 『ミャンマーの教育‐学校制度の教育課程の現在・過去・未来』.明石書店バンコク研究連絡センター(JSPS) 2015「カントリーレポート平成26 年度版ミャンマー国の高等教育基礎事情」 (2020/1/30)
国家教育法改正法 2015 (ビルマ語)(2020/1/30)
ミャンマー教育省大学入学選抜委員会. 2019.5『大学入学案内(2019 年大学入学試験合格者用)』大学印刷所(ビルマ語)
ミャンマー教育省. 2019.7.13「高等教育私立学校事業調整会議が開催」 (ビルマ語)(2020/1/30)
ミャンマー情報省. 2019.4.10 「政府教育省の3 年目の成果」(ビルマ語)(2020/1/30)
ミャンマー情報省. 2019.8.13「2019 年独自に人事昇格・移動する大学との調整会議が開催」 (ビルマ語)(2020/1/30)
Central Statistical Organization. 2018. Myanmar Statistical Year Book 2018
Chaw Chaw Sein. “The Role of University of Yangon in the NIHED for Transforming Higher Education in Myanmar” GNLM[The Global New Light of Myanmar]. 30, Oct.2018.(2020/1/30)
DICA. 2018.4 Notification to carry out investment activities in education services (2020/1/30)
[National Education Strategic Plan ] 2016-21. 2016(2020/1/30)
NLD_2015_Election_Manifesto-en.pdf . n.d.. On Line Burma/Myanmar Library (2020/1/30)
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GNLM. 2017.2.2424. "State Counsellor seeks change in Myanmar’s Educational Strategy" (2020/1/30)
GNLM. 2019.10.17. "State Counsellor addresses 2019 Conference on Implementing Development of Universities" (2020/1/30)
