日本の皆様へ
ミャンマーよもやまばなし
2021年01月12日
第9回 日本語とミャンマー語の「こそあ」言葉の紹介
Yin Moe Thet (インモウテッ)岡山大学大学院社会文化科学研究科 博士後期課程1年
ミャンマー語(ビルマ語とも呼ばれている)は、ビルマ族を含む八つの主な民族とそれぞれの下位に属する大小135種の民族からなるミャンマー連邦共和国の公用語である。語順は日本語と同じく(S+O+V)(主語+目的語+動詞)になっているため、ミャンマー人が日本語を勉強する際は他の外国語より比較的習得しやすいと言われている。
ミャンマー人にとって日本は馴染みの国で日本語の勉強をしたがる人が多い。以前からミャンマーで一番人気がある外国語は英語で、日本語はその次の二番目に人気があり、外国語の学習がブームになっている現在のような時代でもそのランキングは変わらない。ここ近年は、日本とミャンマーの両国の友好関係がより深くなり、日本語を勉強するミャンマー人の増加は無論であり、ミャンマー語を勉強する日本人も年々増加している。
ミャンマーでは日本語を学ぶ人の年齢や目的は様々であり、学部生は学位を取得するため、
仕事についている社会人は将来仕事に役に立てるため、日本に実習生などとしていく人たちは仕事やコミュニケーションに困らないようにするため、ビジネスマンは日本とのビジネスがうまくいくためになど多目的で学んでいる。
一方、ミャンマー語を学ぶ日本人の目的も様々であろう。そのため、今回の留学にあたって両言語の学習に役に立つ研究をすることに決心し、先行書の拝読をした。その時、日本語で書かれた参考書は数多くあるが、ミャンマー語で書かれた参考書が少なかったことに気づいた。つまり、ミャンマー人日本語学習者が日本語を学習する時、使用できる文献は必要に応じて設定されているが、日本人ミャンマー語学習者が参考できる本が少なかったことである。
現在、ミャンマー語を学習する殆どの日本人が使用しているミャンマー語入門書は日本人研究者によって書かれたものである。そのため、ネイティブの感覚から考えると多少ずれるところがしばしば見られる。それも含め、今回の留学の機会にミャンマー語の「指示詞」の研究をすることを決意し、その結果を日本語・ミャンマー語教育に反映させることを目的としている。
指示詞というのは、話し手のいる時点や状況をもとにして指示対象を指し示す際に使用する語であり、日本語では自分の領域内にあるものを指す時は「コ」、話し相手の領域内にあるものを指す時は「ソ」、自分の領域と話し相手の領域の両方の外側にあるものを指す時は「ア」系列で指すことができる。
日本語に対し、ミャンマー語の「指示詞」はどのような働きをしているか見てみる。普段の生活の中でミャンマー人が使用している指示詞を観察すると以下のような文章が出てくる。
花屋で花を買いに行った女性が店の主人に色々聞いている場面を考えてみる。
上記の例文で見られる通り、話し手の手などに持っている事物は「ダー」で指し示すことができるが、聞き手の領域にある事物の指し方は2つに分かれる。聞き手の手に持っている事物は「エーダー」で指し示されるが、聞き手の領域内、或いは聞き手に近い事物は「ホハー」を使用される。遠くにある事物を指し示す場合は「ホーカハー」が使用される。表にまとめると以下のようになる。
これはミャンマー人母語話者が普段、指示対象を直接目で見える場合使用される指示詞である。しかし、話し手と指示対象の遠近、親疎関係などにより使用される指示詞が多少異なる可能性もあり、場合によって「ソレ」の「ホハー」と「アレ」の「ホーカハー」が置き換えできる状況になったりする。それは様々な観点から研究をしないといけないが、ミャンマー語に興味を持っていただけるように少し紹介してみた。研究を行いながら現代ミャンマー人が日常生活の中で、直接目で見える指示対象を指す時どの指示詞が使用されるかが見えてくる。今後は、目で見える指示対象を指す場合のではなく、会話の中でもどのように使用されているかに関しても調べ続け、その結果明らかになったことを日本語とミャンマー語の教育に役に立てたい。
ミャンマーでは高等教育機関で日本語が学べる機関が2カ所あり、ヤンゴン外国語大学とマンダレー外国語大学である。私は、留学前、ヤンゴン外国語大学で、帰国後は転勤になり、マンダレー外国語大学日本語学科の教員として教鞭をとる。現在岡山大学の社会文化科学研究科で研究している。大学ではミャンマー学生が学ぶ外国語学科が11科あり、ミャンマー語学科でミャンマー語を学びに来る外国人も増えている。ミャンマーに留学にする日本人の数も年々増えているため、日本語学科の教員として日本語を教えると同時にミャンマー語の理解を深め、日本人にも役に立つ研究ができることを期待している。